考えごと

ゆずの昔の曲

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ゆずの昔の曲

ゆずは昔の曲のほうが好き、ゆずは変わった、という声は、ずいぶん以前からありました。

割と初期の頃からそういう声はあり、ゆずの二人も、ファンから求められる「ゆずとは」というイメージ像に深く悩み、解散の危機もあったそうです。

ゆずが「変わった」ともっとも顕著に言われるようになったのは、アルバム『トビラ』の頃でした。

『トビラ(2000年)』のジャケット
扉の内側に隠れるゆずの二人、扉を閉ざして外を伺っている

デビュー当時の『ゆずの素』や『夏色』のような素朴な歌詞や爽やかな曲調から、『トビラ』では、暗く激しい雰囲気の曲に変化します。

たとえば、『仮面ライター』や『何処』のような自分を見失ってしまいそうにもがき苦しんでいる歌や、『午前九時の独り言』のような社会派の歌は、ゆずが見せた新しい一面でした。

狂ってるニュースは毎日で
「私には関係ない」って
危機感なんてまるでありゃしない

ニセ物達は我がもの顔で
群れをなし蔓延ってる

もっと歌わせてくれ
隠れてる物が多すぎて
真実がちっとも見えてきやしない

消えてしまいそうな愛は何処?
平和とはいったい何?

ゆず『何処』より

あの戦争が終わり50年
今やあたり前の様に
平和な国だと思っている

なぜあの戦争が起きて
なぜあれだけの人が死んだのか
先生その根本をもっと深く教えてください

ゆず『午前九時の独り言』より

今挙げた『トビラ』の3曲は、どれも悠仁の作詞作曲で、この頃の悠仁は、ゆずの方向性に深く悩んでいたと言います。

二人の年齢は、23、4歳の頃。前作のアルバム『ゆずえん』がミリオンヒットとなり、大きな期待や「ゆず像」がのしかかってきたこと、また、社会の生々しく暗い一面も目の当たりにしたのかもしれません。

個人的には、『ゆずマン』や『ゆず一家』など最初期の作品が好きですが、この『トビラ』全体に流れる悶え苦しんだ叫びの声も、どこか切ない魅力があります。

苦悶をはらんだ数曲と、それゆえにいっそうみる他の優しい曲が、今聴いても心に響いてくるアルバムです。

以上のように、「昔の曲のほうがよかった」「ゆずは変わった」と言っても、だいぶ昔から、それこそデビュー数年目の頃から言われてきたことでもあるので、極論を言えば、ゆずは「変わり続けてきた」と言えるのかもしれません。

しかし、「ゆずは変わり続けてきた」「ひとは変わり続ける」ということで話を終わりにしたら面白くないので、もう少しだけ、昔のゆずの曲の魅力について考えてみたいと思います。

僕は、デビューからまだ間もない頃のゆずの昔の曲が好きです。

アルバム的には、一番好きなアルバムは『ゆずの素』や『ゆずマン』、『ゆずえん』などが好みで、ゆずの曲を発売とともに欠かさずチェックしていたというのは、アルバム『リボン』が最後でした(その後も、全曲ではありませんが普通に聴いています)。

だからと言って、以降のゆずを否定するつもりはもちろんなく、僕がその頃のゆずを好きなのは、僕の年齢がちょうど多感な青春期期と重なり、共感を抱きやすかった、ということも理由の一つとして挙げられるでしょう。

また、もう一点、ここがゆずの曲で昔と変わったポイントではないか、と個人的に思うのは、あまり「小さな物語」が歌われなくなった、ということです。

もともと路上で歌っていた影響からか、ゆずの曲では「ちっぽけな主人公」の「小さな物語」が描かれることが多くありました。

それは一人の思春期の少年のこともあれば、深夜レストランに訪れる不思議な男(『過食な健康食』)のこともあり、路上でそっと語りかけてくれるような、等身大の優しさや切なさがあります。

大きな物語ではなく、小さな物語。ふと流れてくる深夜ラジオのような、自分だけに語りかけてくれる「小さな物語」。

他の誰かにとっては取るに足りないかもしれない、何気ない感情や、人々の姿を、古びたカメラで優しく写しとったような素朴さが、ゆずの昔の曲には多く、その等身大の歌詞が好きだったのだと思います。

一方、ゆずの人気がどんどん大きくなり、より広い舞台、より多くの人々に向かって届ける立場になればなるほど、どうしても「大きな物語」を歌わなければいけなくなる。「小さな物語」を囁くように歌うと、逆にアンバランスになる。

なぜか、と問われると難しいのですが、「そういうもの」なのでしょう。

世界の片隅だからこそ歌えていた歌があるし、世界の中心だからこそ叫べる愛もある。

売れてから変わった、と批判されるミュージシャンは数多くいます。でも、別にそれは「調子に乗った」というわけではない(そういうひともいるかもしれませんが)のだと思います。

たぶん、それぞれの舞台の大小によって、歌える歌、紡げる詩、求められる役割が違うのでしょう。

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